雪を越えつつ


冬の雨コートにしみて東京は遠いところと諭されてをり

国境の門が閉ざされゆくやうに光のなかに君は残りぬ

新宿に吾はまぶしむ 錯乱の神に握手を求めむとして

アルチンボルド連作「四季」のうち「冬」と向き合ふ吾の素材を探す

北風に背より抱かれて極左系冊子わきたつ書肆の奥へと

一壜を吾に託して君は行きいつしか揮発したる香水

群衆にむせたる宵の渋谷にて走らねば走らねばこそ、吾

業を痛みと数へ替ふるか手袋をせぬまま冬のバイク駆くれば

拉致されし人ら知らねば北鮮といふ語少しく美しと思(も)ふ

エレベーターで三十階へ行くときも世界は<性>に覆はれてゐる

雪降るを越え来し吾に貴女より注がるる体温といふ水

長き指にてわが額に零さるる百合の花粉の二十三時よ

男らは視線を放つばかりではないはずなのに 紅き満月

きさらぎの君は月夜の風として吾をおとづれ姿無く去る

朝は輝き虚無も閃くベランダに君に無断で喫(の)むメンソール

泣き疲れ眠る去年の僕にいま僕がかけやる毛布の青さ

携帯メール上手く打てざるまま視野を低めてい行く冬の大道(おほみち)

漆黒のファーに素肌の胸かくす青年と来しドン・ペリニヨン

騎乗位なる体位(ラーゲ)のありてもののふは矢をつがへたり宇治の川辺に

マルクスを読まばや北の雪催ひ近づく窓に身を乗り出して