第二夜

エリン いよいよサイトも本格的に始動しましたね。

カラン卿 うむ、短歌魔宮も今まで以上に盛り上がっていきたいと思うぞ。新聞の紙面ではどうしても紹介できる作品の数に限りがあるので、このサイトでも多くの投稿短歌を紹介していくつもりだ。どうして落選したか、どうすればよい歌になるか、それを知りたい下界の者たちも多かろう。

エリン はい。それでは八月の投稿作の中から紹介していきますね。まずは『うしおととら外伝 雷の舞』に登場する巴御前です。

戦場(いくさば)で舞う雷(いかづち)の白拍子 響け轟け彼の物の怪に/迅水ユキノブ

カラン卿 今回の短歌魔宮で説明したとおり、既視感のある言葉を安易に使うことは禁じる。ここではやはり「舞う」がイカン。白拍子(平安時代末期から鎌倉時代に流行った女性の踊り子。男装して歌い踊った)が「舞う」のは当たり前すぎる。「雷」が「響け轟け」というのもそのままになってしまっているしな。
 既存の言葉を安易に流用して歌を作ろうとすると、その内容も既存のイメージをただなぞっているだけのことになってしまいかねない。

エリン 「雷を背負った人が大きな音を響かせる」というイメージもアニメの世界ではよくありそうですね。

カラン卿 「とら」の名を得る前の妖と出会った巴御前の、己の道を進もうとするという決意はとてもよく伝わってくるので、物語を知らぬ読者にも何らかの印象を与えることが出来るように言葉を工夫してみるがよい。

エリン では、続きまして、

古典にてけりけるけれは覚えねどベムベラベロはいとどたやすき/チェシャ

カラン卿 これは最後まで採用しようかどうか悩んだ。古典文法はなかなか覚えられないが、『妖怪人間ベム』のキャラクターの名前ならすぐに覚えられる、というこっけいな歌だな。よくできていると思うのだが……、どうしても思い出してしまう作品があってな。

べくべからべくべかりべしべきべけれすずかけ並木来る鼓笛隊/永井陽子歌集『樟の木の歌』より

エリン 古典文法の助動詞「べし」の活用ですか。下界の学生さんはみんなこれで苦労するんですよねー。その音が鼓笛隊のマーチングを連想させると言っているんですね。

カラン卿 ここでよく見て欲しいのが「すずかけ並木」。単に「べし」の活用の響きが鼓笛隊のようだ、と言っただけでは、ただの「発想の報告」になってしまって詩的な感動がない。ここで「すずかけ並木」という具体的な光景を入れることで、鼓笛隊がより鮮明に浮かび上がってくるし、作者の「発想の驚き」がより印象的に読者に伝わるのだ。チェシャ殿の発想は大変に面白いが、それを「いとどたやすき」とまとめてしまっては、どうもつまらなくはないだろうか? そのあたりのところをよく考えて再度投稿を!
 ちなみに「いとど」は「よりいっそう・ますます・さらに」という意味であり、この場合では誤りだ。「大変に・非常に・はなはだしく」という意味の「いと」とは違う言葉なので注意すること!

  エリン それでは次の投稿者です。今市子『百鬼夜行抄』の世界です。

妖(あやかし)を畏れ敬ひ守りける古人(いにしえびと)の知恵具(そな)ふ律/すがすがし

カラン卿 言葉を古く見せかけて雰囲気を出そうと工夫しているのはよくわかるぞ。しかし、最初から読み出していくとあまりにも文章的ではないかな? ためしに文章にしてみよう。

「妖をおそれ、敬い、守り続けてきた古人の知恵を備えた律であることだよ。」

エリン あれれ、あんまり内容が変わりませんね。

カラン卿 つまり、すが殿の作品は、文章を57577の形に整えただけのものになってしまっているのだ。だから、上から読み下していっても、心にとどまるようなポイントが生まれず、ただの「文章の内容」を報告していることなってしまうのだ。「歌」と「文章」は違うのだということをよく肝に銘じて、再度チャレンジすること!

エリン 次の投稿歌は荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険・第五部』のブローノ・ブチャラティです。

脈も果て吐息も氷り崩る身の魂(たま)消ゆるとも死地に燃え立つ/仙道舞子

カラン卿 実はこの歌もさっき言ったように、文章を歌の形にはめ込んだものになっている。だから、ずいぶんと窮屈な印象がある。

エリン 「くずるみのたまきゆるとも」っていうのは、なんだか言いにくいですね。

カラン卿 うむ。思いついた内容を文章的に組み立ててしまい、さらにそれを57577にはめ込もうとするから、どうしても苦しい。歌にするときは少しの省略も大事だぞ。なぜなら、この歌の場合、「脈も果て」と「吐息も氷り」と「崩る身」と「魂消ゆる」はどれも、「死ぬ」ということを言葉を変えて言っているからだ。

エリン 同じことを繰り返してしまってはもったいないですね。

カラン卿 その通り、だから

吐息さへ氷りて崩れゆくわれの魂消ゆるとも死地に燃え立つ

くらいにするのがよいのではないか?
 そのほうが「氷り」と「燃え立つ」の対照がより印象的になるしな。ついでに言うと「崩る身」は古典文法的に誤り。下二段活用動詞「崩る」の連体形は「崩るる」なので「崩るる身」が正しい。よくよく注意すること。
 今宵はこれまで。今後も引き続き投稿作を批評していくので、サイトをよくチェックすること。それでは、アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ、アリーベデルチ(さよならだ)!

 

第一夜へ
 
HomeBacknumberAbout this sitePost DogLinksSpecial